石破政権1年の実績と試練
現職総裁である石破茂首相は、2024年秋に総裁に就任してから約1年、内政・外交両面で独自色を打ち出しつつ政権運営に取り組んできた。まず内政では、経済政策として物価高騰への対策を強化した。石破政権は2025年度の予算概算要求で過去最大の122兆円超という積極財政を掲げ、東京をはじめ各地域経済の下支えに注力した。実際、2025年夏の参院選に向けて石破首相はインフレ対策の目玉として全国民に一律2万円(低所得世帯や子どもには追加2万円)の現金給付案を公約に盛り込むなど、大胆な財政出動で国民生活の支援を図った。また、*「政治とカネ」*の問題で揺らいだ政権への信頼回復も課題となり、石破首相は政治資金の透明化策や党内ガバナンス改革にも言及した。しかし一連の汚職・資金スキャンダル(自民党による政治資金パーティー収入の不記載問題など)の余波は依然残り、有権者の自民党離れを止めるには至っていないのが現状だ。
一方、社会・少子化対策では石破政権の成果が一定の評価を得ている。2025年4月からは「こども未来戦略加速プラン」に基づき、子育て支援策が本格始動した。具体的には、高校授業料の実質無償化を全国で実現するため所得制限を撤廃し、公立・私立問わず高校生等1人当たり年11万8800円の就学支援金を一律支給開始。これにより全ての家庭で高校教育費の負担軽減が図られ、公立高校は完全無償化となった。また昨年10月から拡充された児童手当の対象を高校生年代まで広げ(高校生等への年12万円支給)、さらに育児休業制度の拡充にも踏み込んだ。両親とも育休を取得した場合の給付率を手取り給与の10割相当に引き上げ、育休取得促進策を強化したほか、2歳未満の子を育てる労働者への時短勤務補償(賃金10%相当の支給)など思い切った支援策を講じている。妊娠時と出産前後にそれぞれ5万円(子ども1人につき)を支給する新制度も創設され、少子化克服への姿勢を示した。石破首相自身、「子ども予算倍増」の旗を掲げ、所得制限の撤廃に「独身税ではない」と誤解を否定しつつ大胆な子育て支援を推進してきた(2025年6月の記者会見)との報道もある。こうした政策は政権延命策との見方もある一方、子育て世代や地方自治体から一定の評価を受けている。
外交・安全保障では、石破政権は従来の自民党政権と同様に日米同盟を基軸としつつ、防衛力強化の路線を継承した。2023年末に策定された防衛力増強計画(GDP比2%目標)を着実に進め、防衛費増額の財源確保にも努めた。また首相就任後は精力的に首脳外交を展開し、2025年8月にはアフリカ開発会議(TICAD)を主催して30か国以上の首脳と会談、韓国の李在明大統領とも東京で首脳会談を行った。インドのモディ首相を招聘するなど国際舞台で存在感を示し、安保・外交面での手腕をアピールしたといえる。ただ、憲法改正やガバナンス改革など石破氏が以前から主張していた大改革については、衆参両院での安定多数を失った政権基盤では具体的な前進を果たせず、党内保守派からは物足りなさを指摘されている。石破首相自身、防衛相経験者として安全保障に強いが、改憲論議は公明党の慎重姿勢や与党内の足並みの乱れもあり停滞したままだ。外交でも中国や韓国との関係改善に一定の成果を残したものの、保守層の支持する拉致問題進展や毅然とした対中姿勢の面では評価が割れている。
石破政権に対する世論と党内の評価も、この1年間でめまぐるしく揺れ動いた。当初、2024年総選挙後の発足時には「反主流派からの総裁誕生」という新鮮さもあり一定の期待感があったが、その後の東京都議選や2025年7月参院選での連敗によって支持率は低迷。一時は内閣支持率が2割台前半に沈み、「石破降ろし」の声が夏以降高まった。しかし参院選敗北後も石破首相が続投に固執した背景には、8月に入ってから各社世論調査で内閣支持率が急上昇したことがある。共同通信の8月下旬調査では支持率35.4%と前月比12.5ポイントもの上昇となり、「首相は辞任すべきでない」との回答が57.5%と過半数を占めた。毎日新聞の調査でも支持率33%と約半年ぶりに3割台を回復し、NHKなど他社も軒並み支持率改善を報じた。この「支持率急回復」に石破首相は手応えを感じ、退陣論を牽制する材料としたとみられる。実際、石破氏は8月後半の辞任表明会見で「賛成はしてもらえなかったかもしれないが、納得してもらえたのではないか」という趣旨の発言を残し、自らの政策に一定の理解が広がったとの認識を示した。しかし、こうした“土壇場の支持率上昇”も党内強硬派の判断を覆すには不十分だった。自民党内では参院選惨敗の総括が進められ、石破おろしを主導する安倍派や一部議員は「世論調査と選挙結果を同格視するのは民主主義の破壊だ」(青山繁晴参院議員)と激しく反発。石破続投支持派の一角である鈴木宗男参院議員が「世論は石破総理はやめるべきでないという声が圧倒的」とブログで擁護する場面もあったものの、結局参院選敗北の責任論には抗しきれず、石破首相は9月7日に退陣表明に追い込まれた。わずか1年での政権投げ出しは石破氏自身も「心残りだ」と悔しさを滲ませたと報じられている。
石破政権のこの一年は、政策面の成果と政局運営の難しさが交錯したと言える。地方創生や少子化対策での前進、外交での存在感は一定の功績だが、一方で繰り返す選挙敗北と古い体質(カネの問題)に足をすくわれ、党内求心力を維持できなかった。党内には「人材払底の中で石破氏を担がざるを得なかった」(政治評論家の指摘)との辛辣な評価もあり、石破氏の早期退陣は自民党の混迷ぶりを象徴する結果となった。では、退陣表明後に控える2025年自民党総裁選では、いったい誰が「ポスト石破」として浮上しているのだろうか。そして自民党はこの危機を乗り越えられるのか、その構図を次章で詳しく見ていく。
「ポスト石破」をめぐる候補者たちの動向
石破首相の辞意表明を受け、自民党は直ちに後継総裁選びのプロセスに入った。9月8日時点で森山裕幹事長(石破政権下で起用)が総務会に対し総裁選の日程・方式の協議開始を提起し、党総裁選挙管理委員会も臨時総裁選の是非を問う手続きを進めていた。結局、党所属国会議員と党員・党友が参加する「フルスペック方式」で総裁選を行う方針が固まり、告示から投開票まで最低2~3週間を要するため投開票日は10月上旬との見通しが有力となっている。党内の一部には国会議員票の比重を高める簡易方式を求める声もあったが、最終的に地方票も含めた本格戦となる見込みだ。日程面では10月4日投開票案が取り沙汰されており、経済対策の進捗や党内調整を見極めつつ9日の総務会で正式決定する運びとなった。では、肝心の立候補が取り沙汰される候補者とは誰か。ここでは永田町が注目する有力5人を中心に、各候補の動向と支持基盤を分析する。
筆頭候補として名が挙がるのは2人
小泉進次郎氏と高市早苗氏である。石破首相退陣の一報を受け、メディア各社も「ポスト石破の本命」としてこの二人に焦点を当て始めた。小泉進次郎氏(44)は神奈川県出身・選挙区は横須賀市、元首相の父純一郎氏譲りの高い知名度を持つ改革派のホープだ。石破内閣では農林水産大臣として入閣し、食料安全保障や地域活性化政策で実績を積んだ。若者や都市部の有権者に人気があり、環境問題や働き方改革にも関心が高い“次世代リーダー”として期待されている。昨年(2024年)の総裁選にも出馬しており、1回目投票では地方票で健闘し全体3位につけた。今回は石破政権で要職を担ったことも追い風に、再び立候補の意欲を隠していないとされる。ただ、小泉氏は派閥に属さない独立系ゆえに議員票の固めに課題を抱える。前回は地方票で躍進するも決選投票に残れず3位に終わった経緯があり、今回はまず国会議員の推薦人確保と支持拡大がカギとなる。支持基盤としては、石破首相を支えた中堅・若手無派閥議員や、改革志向の強い議員グループの一部が小泉氏支持に回る可能性が高い。特に派閥横断の若手議員連盟(いわゆるY世代議連)では、小泉氏を推す声が強まっているという。小泉氏自身は現時点で立候補を明言していないものの、「次期総裁選に出るかは白紙」としつつ周囲と水面下で綿密に準備を進めていると見られる。
対する高市早苗氏(64)もまた有力視される一人だ。奈良県出身(選出は比例近畿だが現在は党本部所属扱い)で、安倍政権下では総務大臣など要職を歴任した保守派の代表格である。外交・安全保障に強く、タカ派的な主張で知られる高市氏は、自他ともに認める安倍晋三元首相の理念的後継者だ。党内最大勢力である安倍派(清和政策研究会、約100人)の支持を得ていると目され、石破政権下では閣外にいたものの常に政権批判の急先鋒だった。昨年の総裁選では初回投票で1位となりながら決選投票で石破氏に敗れた経緯があり、今回は雪辱戦に燃えている。石破退陣表明直後の9月上旬時点で高市氏は「出るとも出ないとも申し上げていない」と慎重を装うが、その眼中に次期総裁ポストがあるのは明らかだ。支持基盤は前述の安倍派が中心だが、同派閥の有力者で石破政権で冷遇されていた萩生田光一氏(政調会長を一時辞任し謹慎処分を受けていた経緯あり)らが早くも高市擁立に向け動いているとされる。また保守系の他派閥議員、例えば高市氏と近い信条を持つ一部の麻生派や無派閥右派議員も合流する見通しだ。高市氏は昨年の総裁選で地方票でも一定の支持を集めており、特に自民党員層では保守強硬な主張が根強い人気を持つ。女性初の総理総裁の可能性を秘める点も注目材料で、「高市首相」誕生なら保守支持層の結集のみならず女性リーダー待望論にも応える形となる。ただ一方で、強硬路線へのアレルギーを持つ中間層や公明党支持層には敬遠される恐れもあり、世論の支持拡大に課題があるとも指摘される。その意味で、高市氏にとっては党内基盤の圧倒的強さ(最大派閥の後押し)と世論での賛否両論という両刃の剣をどう扱うかがポイントとなろう。
この小泉・高市両氏が「ポスト石破」の二大軸と目される中、その他にも有力候補が数名、水面下で動きを見せている。まず茂木敏充氏(栃木県選出、67)。石破政権で幹事長を務めた党人事の要であり、外交手腕と調整力に定評があるベテランだ。茂木氏は党内中堅の実力者で、自ら率いる志公会(旧竹下派、約50人)の支持を固めつつ9月8日に立候補の意向を表明した。前回総裁選では不出馬だったが、今回は「石破政権の次」を見据え派閥領袖として名乗りを上げた格好だ。茂木氏の強みは、官僚出身の緻密さとタフな交渉力で党内幅広い層とパイプを持つ点だ。経済通でもあり、岸田政権時代に外相・経済再生相などを歴任した経験から、政策立案力も高い評価を受ける。ただ世論人気では小泉氏らに及ばず、派閥の結束次第ではキングメーカーに回る可能性も指摘される。
続いて林芳正氏(参院山口選出、62)。石破内閣で官房長官を務め、政権を支えた安定感が売りだ。もともと宏池会(岸田派)の重鎮であり、岸田文雄前総裁の盟友でもある。昨年の総裁選では4位に終わったものの、今回は岸田派の本命候補として擁立論が強まっている。林氏はかつて外務大臣も務めた国際派で、中国とのパイプが太い点や、農政・教育など幅広い政策通として知られる。9月8日に出馬の意向を公式に示したと報じられ、宏池会の総力戦で臨む構えだ。課題は派閥規模が約40人と最大勢力に比べ小さい点だが、前回石破支持に回った宏池会としては悲願の巻き返しであり、キャリアと実績を前面に冷静沈着な林氏のイメージで勝負する。林氏自身、「経済も外交も安定軸が必要」として石破路線の継承と軌道修正のバランスを強調しているという。
さらに小林鷹之氏(千葉県選出、49)も注目の一人だ。元経済安全保障担当相で、昨年の総裁選では決選投票に残れずも5位につける健闘を見せた若手ホープ。岸田派所属で、政策通・クリーンなイメージを買われ岸田前首相が育てた存在だ。今回も出馬の可能性が取り沙汰され、党内刷新を求める議員や無党派層からの支持を狙う。小林氏は経済安保の専門家として中国ハイテク規制などを指揮した実績があり、新時代の安全保障政策を語れる点が強みだ。ただ派閥の先輩・林芳正氏との調整次第では立候補を見送る可能性もあり、“将来の総理候補”として今回は影のキーマンとなるかもしれない。
最後に名前が浮上しているのが加藤勝信氏(岡山県選出、69)。元官房長官・財務相であり石破内閣では財務大臣として財政運営を担った実務派だ。加藤氏は麻生派に所属し、麻生太郎副総裁の側近としても知られる。安倍・菅・岸田各政権で要職を歴任した安定感と調整力が評価され、「ポスト石破」の一角として永田町で急浮上している。もっとも加藤氏自身は「黒子」に徹するタイプで、現時点で出馬の意図は明確にしていない。麻生派内では高市氏支持と加藤氏推しで意見が割れているとの観測もあり、麻生副総裁の判断がカギだ。仮に加藤氏が出馬すれば財政再建派・穏健保守層の受け皿となり得るが、世論人気という点では他候補に劣るためキングメーカー的立ち位置に留まる可能性も高い。
以上5名が主要な候補者として取り沙汰される。石破首相本人は総裁選不出馬を明言しており、石破派系議員らは小泉氏や林氏らへの支援に回る見通しだ。9月8日時点で立候補を公式に表明したのは茂木・林両氏だが、高市氏と小泉氏も出馬の意志は固いとみられる。小林氏や加藤氏を含め5人前後の乱戦となる可能性が高まっている。総裁選の構図は「改革派vs保守強硬派vs主流派経験組」の三つ巴とも評され、永田町は久々の熱戦に沸き立っている。次節では、各候補を支える派閥の力学と支持構造に目を向け、勝敗の行方を占う。
派閥力学と支持構造:安倍派の影響力と党内再編
自民党総裁選において派閥の動向は勝敗を左右する最大要因だ。現在、党内には7つ程度の主要派閥が存在するが、中でも安倍派(清和会)の動きは注目される。安倍晋三元首相の死去後も党内最大勢力(約100人)を維持する安倍派は、石破政権下では終始「反石破」の旗色を鮮明にしてきた。石破首相は無派閥ながら元々安倍氏と確執があり、就任時も安倍派からの支持はごく一部に留まった。そのため政権運営では安倍派を閣僚ポストから冷遇する傾向が見られ、これが参院選敗北後の石破降ろしに直結した面もある。安倍派の重鎮である麻生太郎氏(副総裁)は早々に「総裁選の早期実施」を要求して石破退陣を迫り、事実上の“退陣勧告”となった。今回、高市早苗氏が安倍派を中心に支持を受けるのは上述の通りだが、派閥会長不在の清和会内でも意見は一枚岩ではない。保守強硬路線には賛同しつつも、高市氏の求心力に不安を抱く議員の一部は、より世論受けする小泉進次郎氏への鞍替えも視野に入れるという。特に若手・中堅の中には「次は世代交代を」と望む声もあり、石破政権下で冷や飯を食わされた旧安倍派議員が一部反主流として動く可能性も否めない。もっとも派閥領袖格の下村博文氏や萩生田光一氏らは既に高市支持を打ち出しており、安倍派全体としては高市氏一本化の公算が大きい。高市氏にとって安倍派の基礎票は90~100票近い固まりとなり最大の武器だ。他派に比べ突出した組織票を背景に、一回目投票でトップ当選を狙う戦略とみられる。
麻生派(志公会、約50人)の動きもカギを握る。麻生太郎氏率いる志公会は党内第2派閥で、石破政権では副総裁ポストを得て与党を裏方で支えた。しかし連敗続きの中、麻生氏自身が石破退陣を促したことで、志公会は早期に「ポスト石破」へ路線を切り替えた格好だ。麻生派内では、前述の加藤勝信財務相を推す声と、高市氏支持へ乗る声とで割れている。麻生氏個人は保守志向が強く高市氏とも近いが、自派から総理を出す好機とあれば加藤氏を擁立したい思いもあるようだ。もっとも派内結束を優先する麻生氏は最終的に一本化を図るとみられ、仮に加藤氏出馬が実現しない場合は派閥ごと高市支持へ傾斜する可能性が高い。志公会には財務省出身者や地方基盤の厚いベテランが多く、その多数が安定志向で「石破路線の軌道修正」を望んでいる。小泉進次郎氏のような改革色の強い候補には慎重で、高市氏または茂木氏といった保守安定型への支持が相対的に強いようだ。したがって麻生派の票は高市氏か茂木氏に流れると予想されるが、茂木氏は自派の票固めが優先のため志公会票がまとまって流入する情勢にはない。麻生派の選択次第では高市陣営に50票規模の上積みが生じ、一回目投票から高市優位が盤石となる可能性もある。
岸田派(宏池会、約45人)は林芳正氏と小林鷹之氏という二人の候補擁立が取り沙汰され、派内調整が難航している。宏池会はもともと石破氏と政策的に近く、昨年の総裁選では石破支持に回った経緯がある。しかし今回、石破退陣により「ポスト石破は宏池会から」との悲願が生まれ、林芳正官房長官が派閥を挙げて立候補に踏み切った。林氏は派閥会長である岸田前首相からの後押しも受け、岸田派の結束は比較的強固だ。小林氏については将来の担ぐ駒として温存するとの判断がなされる可能性が高く、最終的に宏池会は林氏単独候補で一本化するとの見方が強まっている。岸田派の票は自派候補の林氏に概ね流れる見通しだが、問題は勝ち目が薄い場合の動きである。もし林氏が初回投票で3位以下に沈めば、決選投票では小泉vs高市という構図で岸田派票の行方が問われる。宏池会は伝統的に穏健リベラル・現実路線を旨とするため、極端な右寄りの高市氏よりは、小泉氏(あるいは茂木氏)の方が許容しやすいと見られる。つまり決選投票で林陣営の票は「非高市」の候補に流れる可能性が高い。林氏本人も前回総裁選で高市氏に敗れた経緯から、高市政権誕生には否定的とされ、小泉氏への乗り換えを示唆する声も出ている。岸田前総裁自身も高市氏のタカ派路線には距離を置いており、宏池会としては石破政権の政策を継承しつつ穏健改革を進める候補を支持する方向だ。こうした岸田派の動向は、決選投票時のキャスティングボートを握る可能性がある。
茂木派(平成研究会、約50人)は派閥領袖の茂木敏充氏が自ら立候補を決めたため、派内は結束して茂木氏支持に回る。他候補への鞍替えは考えづらく、まずは一回目投票で茂木氏がどこまで票を伸ばせるかが焦点だ。平成研は旧竹下派の流れを汲み、地方基盤に強い議員や選対巧者が多い。茂木氏は参院選総括でも中心的役割を果たしており、石破首相退陣後の党再建に自ら舵を取る意欲を見せる。派内からは「茂木総裁」で政権安定を取り戻すべきとの声が上がる一方、仮に茂木氏が初回で上位2位に入れなかった場合には、決選投票で派閥票をどう扱うか難しい判断を迫られる。平成研は元々統制が強い派閥で、派閥推薦以外にはなかなか投じない傾向がある。したがって茂木氏脱落の場合でも安易に小泉氏や高市氏支持へ流れるとは考えにくく、棄権または白票戦術で存在感を示す可能性も指摘される。しかし現実には総裁選での影響力確保を優先し、より政策の近い(=保守安定志向の)高市氏に協力するシナリオもあり得る。逆に小泉氏とは改革路線で相いれず、平成研票が小泉氏に渡ることは考えづらいと見られる。
二階派(志帥会、約35人)も見逃せない存在だ。ベテラン二階俊博氏が率いる志帥会は、派閥横断的人脈を持つ二階氏の采配で柔軟に動くのが特徴だ。石破政権発足時、二階氏は石破支持に回り石破内閣でも二階派議員が入閣した経緯がある。そのため二階派内には石破路線への未練もあるが、現実にはポスト石破で有利な陣営に素早く乗り換えるだろう。二階氏は過去に菅義偉氏を総裁に押し上げた実績もあり、情勢を読むことに長けている。今回、二階派は前回同様自主投票になる可能性が高いが、水面下では二階氏が高市氏支援に動くとの観測がある。高市氏の地元奈良は二階氏の地盤和歌山と近接し、両者はパイプもある。他方で二階氏は小泉純一郎元首相とも親密で、その息子である進次郎氏への期待も捨てていない。志帥会の票は読みにくいが、勝ち馬に乗る pragmatism で知られるだけに、本命候補が見極められた段階で一気に流れる可能性がある。決選投票になれば、二階派票の動向が最後の一押しとなるかもしれない。
石破派(無派閥グループ)は、かつて水月会と称した石破氏の私的勉強会を母体にした緩やかな集団だ。石破氏は2021年に派閥を解消して以降フリーだったが、彼を慕う十数人の議員がゆるく連携している。石破退陣により、このグループの票は分散が予想される。石破氏と思想的に近い小泉進次郎氏や岸田派系候補に流れる票が多いとみられ、高市氏に行く可能性は低い。石破氏自身は「静観」を装うが、裏では小泉氏を支援するよう自身のかつての秘蔵っ子たちに働きかけているとの情報もある。実際、地方票で強みを持つ石破系議員(元地方首長出身など)は「小泉候補なら党員票を取れる」と積極支援に前向きだという。無派閥票全体では小泉・高市両氏に人気が分かれるが、石破系に限れば小泉氏支持が多数派となろう。こうした無派閥・石破系の動向も、特に地方票争奪において小泉氏に有利な追い風となる。
以上、派閥別に見ると、高市早苗氏は安倍派+麻生派の一部+他派保守系で最大100超の議員票を固め得る態勢にあり圧倒的組織力を誇る。小泉進次郎氏は無派閥有志や石破系、さらには若手議員グループ横断的な支持で新しい流れを作り出そうとしているが、数では高市陣営に見劣りするため地方票での大勝が不可欠となる。林芳正氏は岸田派の結束票(約40弱)でまずまずの基盤があるが、他派からの上積みは限定的で苦戦が予想される。茂木敏充氏は自派50票弱のみが頼りで、一回目投票で上位に食い込めるか微妙なラインだ。小林鷹之氏は岸田派内調整次第だが、仮に出馬すれば同派内で林氏と票割れする恐れがあり、派閥了承なく強行出馬はしづらいだろう。加藤勝信氏は麻生派の支持(50票弱)を丸ごと得られれば一大勢力となるが、現状そこまで派内が一致していない。
このように、派閥力学だけ見ると高市氏が断然有利に映る。しかし総裁選は党員・党友票(地方票)の存在により様相が変わる可能性がある。総裁選1回目の投票では国会議員票と同数の地方票が配分されるため、仮に議員票で高市氏がリードしても、地方票で小泉氏が逆転するシナリオは十分考えられる。実際、昨年の総裁選でも石破氏は議員票では高市氏に及ばなかったものの、地方票で逆転し決選投票進出を果たしている。今回、小泉氏は若手党員を中心に高い人気を持ち、SNSやタウンミーティングを駆使した草の根選挙で地方票の大半を狙う構えだ。一方、高市氏も保守系党員の支持が厚く、加えて地方組織を動員できる大派閥の後押しがある。地方票の行方は流動的で、一概に小泉氏圧勝と決めつけるのは早計だろう。加えて、茂木氏や林氏といった他候補も各地の後援組織や業界団体を通じて一定の地方票を確保する可能性があり、票読みは難しい。総裁選管理委員長の逢沢一郎氏は党所属国会議員及び都道府県連代表の過半数要求があれば任期満了前でも総裁選実施可能とする党則を引き合いに手続きを進めており、今回のフルスペック選挙で党員票の重みが再認識されている。地方票の帰趨は「ポスト石破」を占う最大の焦点となっている。
総裁選の政策争点:何が問われるのか
今回の総裁選は、候補者の顔ぶれだけでなく政策論争の中身にも注目が集まる。石破政権が残した課題を引き継ぎつつ、新たな総裁候補たちはそれぞれのビジョンを競い合う見通しだ。主な争点として浮上しそうなテーマを整理する。
1. 経済政策と財政運営
経済・財政政策は最大の争点の一つだ。石破政権は物価高対策として大規模な財政出動を行い、前述の全国民現金給付など即効性のある措置を講じた。その結果、国の歳出は膨張し財政規律の緩みを指摘する声も党内から出ている。次期総裁候補の中でも、この点に対するスタンスは分かれる。高市早苗氏は積極財政と金融緩和の継続を強く主張し、いわゆる「高市トレード」と呼ばれる市場の反応を生んでいる。高市氏はアベノミクスの継承者として大規模な財政出動・歳出拡大路線を訴え、デフレ脱却・景気浮揚を最優先に据える考えだ。一方、小泉進次郎氏は財政政策で明確な持論を打ち出してはいないものの、環境投資や地方創生への重点配分など新しい経済モデルを模索しているとされる。小泉氏は気候変動対策や次世代産業育成を「成長のエンジン」にする構想を掲げ、財政健全化には急がず大胆な未来投資を提唱する可能性がある。林芳正氏や茂木敏充氏といったベテラン勢は、いずれも財務省とのパイプが太く、財政規律派に分類される。特に林氏は財政再建目標の堅持や歳入改革(消費税も含む税制の見直し)に前向きとされ、石破政権下で緩んだ財政を立て直す役割をアピールするだろう。茂木氏もまた財政健全化に理解を示しつつ、経済成長との両立(プライマリーバランス黒字化目標の柔軟運用)を訴えるとみられる。金融政策では、日本銀行の超低金利政策を巡り論戦が予想される。高市氏は金融緩和長期化を支持し「日銀との連携強化」を主張するが、他方で林氏や茂木氏は出口戦略に含みを持たせる可能性がある。いずれにせよ、「ポスト石破」総裁は記録的な円安・物価高への対応や、逼迫する国債発行残高にどう向き合うか、経済運営の手腕が厳しく問われよう。党員や国民の関心も高いテーマだけに、各候補は争点を明確にして支持を訴える必要がある。
2. 安全保障・外交政策
安全保障政策も重要な争点となる。石破政権は防衛費増額計画を進めたが、参院選で与党が過半数を失い安全保障関連法案の審議も停滞していた。高市早苗氏は憲法改正(特に9条への自衛隊明記)や敵基地攻撃能力保有など、安倍路線の安全保障強化策を一貫して主張する立場だ。高市氏は「国家の覚悟」を問うかたちで改憲の必要性を訴え、党内保守層の支持を集めるだろう。実際、高市氏が首相となれば憲法改正の国会発議に向けた動きが加速する可能性がある。ただし連立与党の公明党は慎重姿勢を崩しておらず、現状の国会勢力では実現困難とも指摘される。一方、小泉進次郎氏は安保政策で明確な持論を語る場面は少ないが、基本的には現実的な防衛力強化路線を支持しつつ、国民への丁寧な説明や抑止力と外交努力のバランスを重視するスタンスとされる。小泉氏は父譲りの発信力で、例えば「国防と環境技術の融合」や「若者を巻き込んだ安保議論」など新機軸を打ち出す可能性もある。林芳正氏は元外相だけに外交重視であり、中国や韓国との関係安定化を図りつつ米国との同盟強化を進めるハト派寄りのリアリストと目される。防衛費増額についても林氏は「GDP比2%」目標を尊重しつつ効率的な予算配分を訴えると予想される。茂木敏充氏は外相・防衛相経験こそないが、安全保障に明るく、対中強硬論にも理解を示す現実派だ。経済安全保障担当相を務めた小林鷹之氏は、サプライチェーン強靭化や先端技術の流出防止など経済安保政策でアピールするだろう。総裁選の論戦では、防衛費の財源(増税か国債か)、敵基地攻撃能力保有の是非、自衛隊の位置づけ(改憲含む)などが争点となりそうだ。また外交では、石破政権下で停滞したロシアとの関係や拉致問題、中国の軍拡への対応、さらにはアジア近隣諸国との協調策なども議論される。高市氏は人権問題で中国に厳しい制裁姿勢を主張する一方、小泉氏や林氏は気候変動対策などで中国とも協力が必要といった柔軟論を唱える可能性もあり、スタンスの差異が浮き彫りになりそうだ。
3. 少子化・社会保障・地方創生
日本社会の最重要課題である少子化対策も総裁選の大きなテーマだ。石破政権は前述の通り子育て支援策を拡充し、子ども関連予算の大幅増に舵を切った。新総裁候補たちも、少子化問題への取り組み姿勢が問われる。小泉進次郎氏は自ら育休を取得した経験を持ち、男性の育児参加推進や働き方改革に強い関心を示してきた。おそらく総裁選でも「若い世代が希望を持てる社会」「女性活躍と子育て環境整備」を掲げ、具体策としてさらなる育児休業支援や教育無償化拡大、児童手当の拡充などを訴えるだろう。高市早苗氏も保守政治家として家庭の価値重視を掲げ、少子化対策には積極的だ。高市氏は以前から所得税の世帯単位課税への移行や、3人目以降の児童手当倍増など大胆な少子化対策を提案しており、総裁選でも「結婚・出産・子育てを国家戦略に位置付ける」とアピールするとみられる。林芳正氏は教育政策にも詳しく、高校・大学教育の負担軽減や地方大学の振興策を掲げる可能性がある。茂木敏充氏は地方創生担当相経験もあり、地方の子育て支援策(例えば不妊治療支援や地方移住者への支援)など地域目線の施策を強調するかもしれない。総裁選の論点としては、児童手当の更なる拡充(所得制限撤廃の恒久化など)、待機児童ゼロに向けた保育の質量両面の強化、育児休業給付のさらなる引き上げや企業へのインセンティブ、さらには*「独身税」的な議論*の是非まで幅広く論じられる可能性がある。先の通常国会で議論となった社会保険制度改革(高齢者と現役世代の負担配分見直し)についても、各候補の姿勢が問われる。石破政権では高額療養費制度の見直しや医療・介護の給付と負担の在り方について検討が始まっていたが、政局混乱で棚上げとなっている。次期総裁の下で全世代型社会保障改革をどう進めるか、例えば年金受給開始年齢の見直しや高齢富裕層への負担増など、タブーにも踏み込めるかが焦点となろう。地方創生も見逃せないテーマだ。石破氏自身が地方振興に力を入れたことから、後継候補たちも地域経済活性化策を競う可能性がある。交通インフラ投資の配分の見直しや、デジタル田園都市国家構想の推進、農林水産業の輸出振興策など、各候補が地方の支持を得るための政策メニューを打ち出すだろう。
4. 政治改革・ガバナンス(統治能力)
今回の総裁選は、連続する政権の短命化と自民党政権の統治能力低下への反省が背景にある。そのため、政治改革やガバナンス改善も争点となりそうだ。特に石破政権を揺るがした*「政治とカネ」問題*への対応について、各候補の見解が問われる。石破首相退陣の一因ともなった自民党内の裏金問題(政治資金パーティー収入不記載疑惑)では、今年に入っても党所属議員の処分や捜査が相次いだ。高市早苗氏は問題発覚当初こそ沈黙を守ったが、「党浄化なくして信頼回復なし」として関与議員の更迭を主張する立場に転じている。一方、小泉進次郎氏はクリーンなイメージを自認しており、総裁選でも党内ガバナンス改革(例えば政治資金の透明化ルール強化や派閥の資金プール廃止など)を掲げる可能性が高い。林芳正氏や茂木敏充氏は党執行部の一員として調査・再発防止策をまとめた経験をアピールし、「膿を出し切る」と強調するだろう。ただ、古参の彼らには「自民党古い体質の延長線上」との批判もあるため、どこまで抜本改革を約束できるかは未知数だ。党改革としては他にも、総裁公選ルールの見直しや、派閥政治の弊害是正、政治分野におけるジェンダー平等推進(女性候補者比率を上げる制度など)といった論点が挙がるかもしれない。ガバナンスの観点では、衆参ねじれ・少数与党状態で政策を実行する統治能力も問われる。現在、石破政権は衆参とも与党が過半数割れという異例の事態であり、これが政権運営を極めて不安定にしている。次期総裁はこの難局にどう立ち向かうか――例えば野党との合意形成や一部野党との連携まで踏み込むのか、それとも早期の衆院解散で信を問うのか、戦略が問われるだろう。前述のように、石破政権では森山幹事長が他党との調整役を果たしてきたが、森山氏は参院選敗北の責任を取り辞任を示唆している。新総裁の下では執行部を刷新し、公明党との連携を再構築することも急務となる。現在公明党との関係は冷え込んでおり、特に東京での選挙協力を巡って摩擦が生じている。総裁選の論戦では各候補が公明党との信頼関係回復や、国会運営戦術について触れる場面もあるかもしれない。総じて、「短命政権の繰り返しで与党の統治能力が低下している」との指摘にどう応えるかが、次期総裁には突きつけられている。自民党が長期安定政権を復活させるには大胆な発想転換が必要との声もあり、総裁選を通じてその片鱗が示されるか注目される。
次期総裁の行方:シナリオと展望
では、以上の情勢を踏まえ2025年総裁選の勝敗シナリオを展望してみよう。結論から言えば、現時点で高市早苗氏が一歩リードとの見方が党内外に広がっている。安倍派を中心に盤石の議員票を固め、昨年総裁選での得票トップという実績もある高市氏は、決選投票に進めば国会議員票の過半を制する可能性が高い。一方、小泉進次郎氏は党員票で圧倒し初回投票首位を狙う作戦だが、仮にトップ当選しても決選投票(国会議員票382人による投票)で巻き返されるリスクが指摘される。現行ルールでは決選投票時の地方票は各都道府県1票ずつ計47票に目減りし、事実上議員票重視の勝負となるためだ。前回も高市氏は初回トップながら石破氏との決選で逆転負けを喫した経緯があるが、今回は石破氏不在で保守派が結束しており、仮に決選が「高市 vs 小泉」となれば議員票の論理で高市氏有利との予測が一般的だ。小泉氏勝利のシナリオがあるとすれば、一つは初回投票で地方票の爆発的大差により他候補を引き離し、議員票でも2位高市氏に肉薄するケースだ。例えば地方票の過半数(約200票)以上を小泉氏が獲得し、議員票でも100票超を抑えれば、決選投票でも勢いがつく。そうなれば「小泉旋風」に乗じ一部議員が雪崩を打って小泉氏支持に回る可能性もある。ただ現実には、高市陣営の締め付けが強く大量の寝返りは考えづらいため、小泉氏としては初回過半数当選(議員・党員票合計383票中192超)を目指すくらいの気概が必要だろう。もう一つのシナリオは第三の候補が決選投票に進出するケースである。仮に高市氏または小泉氏のどちらかが初回3位以下に沈み、代わって林芳正氏や茂木敏充氏が2位に滑り込むような波乱が起きれば、情勢は一変する。その場合、決選投票は「林 vs 高市」または「茂木 vs 高市」などとなり、議員票の動向は読みにくくなる。林氏であれば岸田派+他派穏健派が結集し、高市氏の保守票と真っ向勝負となる。茂木氏なら党内調整力への期待から麻生派や二階派の支援も得て逆転勝利の芽も出てくるかもしれない。しかし、この「第三の候補浮上」シナリオは、小泉・高市両氏がともに大きく失速しなければ現実的ではない。現状、党員人気と派閥力学で二強が突出しているため、やはり決選投票は小泉氏対高市氏になる公算が高いだろう。
仮に高市早苗氏が新総裁に選出された場合、日本初の女性首相の誕生となり歴史的転換点となる。高市政権は安倍元首相の遺志を継ぐ形で経済・安保政策の強化に邁進し、積極財政による景気浮揚策や憲法改正の推進が掲げられるだろう。市場も既に高市氏が次期首相となる可能性を部分的に織り込み、円安・株高が進むなど期待を示している。一方で高市氏は極端な保守色ゆえに世論の賛否が割れることも予想され、特に野党やリベラル層は強く反発するだろう。高市政権が誕生すれば、野党は「安倍政治の復活」と位置付けて批判を強め、来る総選挙での争点が明確化するかもしれない。また、公明党との関係も再調整が必要だ。公明党は高市氏の安保・改憲姿勢に難色を示す可能性が高く、連立維持の条件として政策協定の見直し等を求めることも考えられる。高市氏が強硬姿勢を崩さなければ、公明党が連立離脱をちらつかせる懸念もゼロではない。そうした政権運営上のリスクを抱えつつも、高市氏なら自民党保守層の結束が強まり、支持率も一時的には上向く可能性がある。女性リーダー誕生への期待感も加われば、長期低迷する自民党支持率にカンフル剤となり得よう。高市首相就任後、早期に衆議院解散・総選挙に打って出るシナリオも取り沙汰される。自民党が野党に先手を打ち勢いのあるうちに勝負を挑む戦略だが、逆に「高市色」が強すぎて中道層が離反するリスクも孕むため、タイミングは慎重に見極める必要がある。
一方、もし小泉進次郎氏が逆転で総裁の座を射止める展開となれば、自民党は一気に世代交代を印象づけることになる。40代半ばの首相誕生は戦後最年少級であり、国民の期待感も高まるだろう。小泉政権が発足すれば、まず取り組むのは党の刷新とイメージアップだ。自民党内の古い体質打破を掲げ、若手登用や大胆な組織改革に乗り出す可能性が高い。たとえば、幹事長に同世代の改革派を起用し、閣僚にも女性や若手を積極登用するなど“清新な布陣”を敷くことが考えられる。政策面では、石破政権の柱だった子育て支援策や地方創生を継続・強化しつつ、環境政策やデジタル改革など未来志向のテーマを前面に押し出すだろう。小泉氏は「国民との対話」を重視するタイプであり、SNSなども駆使して情報発信力で政権を引っ張るかもしれない。しかし懸念されるのは党内基盤の弱さと経験不足だ。小泉氏を総裁に頂く自民党では、派閥領袖クラスのベテランたちが裏で主導権を握ろうと画策する恐れがある。党内には小泉氏を「人気先行」と冷ややかに見る向きも残り、政権基盤は盤石とは言えない。野党は小泉氏が掲げる改革の実効性を疑問視し、「中身が伴わないパフォーマンス政治だ」と攻撃を強めるだろう。実際、小泉氏には閣僚経験(環境相)のみで政策通とは言えない面もあり、細部の詰めや調整力に不安が指摘される。さらに、安倍派や麻生派など大派閥との関係再構築も課題だ。総裁選で競った高市陣営の不満をどう抑えるか、党内融和策を打てるかが長期政権への試金石となる。もし小泉氏が首相となれば、世論の支持は高まる公算が大きい(世論調査で「首相にふさわしい人物」として常に上位にランクされる人気がある)が、その“追い風”が続くうちに解散総選挙で勝負に出る選択肢も考えられる。無論、野党も対策を練ってくるため油断は禁物だが、小泉新首相誕生なら早期の衆院選シナリオは現実味を帯びる。
他方、第三の候補(林氏や茂木氏など)が漁夫の利を得て総裁に就く可能性は低いとはいえゼロではない。例えば林芳正氏が決選投票で高市・小泉両氏の対立を横目に浮上するシナリオもある。その場合、林首相は岸田文雄政権の延長線上にある穏健改革路線を引き継ぎ、地味ながら安定感のある政権運営を目指すだろう。外交に強い林氏が首相となれば、対中関係改善や日韓関係修復に注力しつつ、内政では財政健全化に舵を切る可能性が高い。だが林政権は党内基盤が岸田派中心と限定的で、他派閥の支持が長続きしない恐れがある。茂木敏充氏がもし総裁になれば、党内実力者の集団指導体制に近い形で政権運営をするかもしれない。茂木氏は調整型であり、各派閥に配慮した組閣・党役員人事を行って挙党態勢を築くだろう。政策的には岸田→石破路線の中間を取り、緩やかな財政再建と経済成長の両立、現実的な外交安保と穏健改革という「ミックス型」になると予想される。しかし茂木政権もまた新鮮さに欠け、短命に終わるリスクがある。実際、朝日新聞の政治評では「総裁が辞任する度に次は前任より劣化する」という皮肉も呈されており、人材不足の中でのたらい回しは長期政権に繋がらないとの厳しい指摘もある。いずれにせよ、誰が総裁になろうとも、衆参少数与党という現状では腰を据えた政権運営は難しく、当面は綱渡りが続くとの見方が支配的だ。次の総裁が長期政権を築ける可能性は低く、短命政権が重なれば「政権崩壊」すら視野に入るとする悲観的な分析もある。その予測を覆すには、自民党自らが大胆な発想転換で統治能力を刷新するしかないが、果たしてそれが可能かどうか。総裁選後の新体制に日本の政治の命運がかかっていると言っても過言ではない。
野党の動向と総選挙の行方
自民党総裁選は与党内の権力闘争であると同時に、日本政治全体の力学にも大きく影響する。当然ながら野党各党もこの動きを注視しており、次期総裁の下での政局に備えて動きを見せている。まず、最大野党である立憲民主党では参院選敗北を受けて党執行部が刷新され、現在は野田佳彦氏が新代表に就任している。野田代表(元首相)は8月以降、野党共闘の旗振り役を買って出ており、例えば野党間でガソリン税の一時的な減税を共通政策として実現するよう提唱するなど、具体的な協調路線を模索している。実際、立憲の野田代表は「野党間で生活支援策を束ねて与党に対峙する」方針を打ち出し、国民民主党や日本維新の会にも呼びかけを行っている。ただ、野党の現状は一枚岩とは程遠い。昨年の衆院選後、野党各党は首班指名選挙で統一候補を擁立できず、自民党に政権を明け渡した過去がある。今回も、たとえ自民党内が混乱しても野党がまとまらなければ政権交代は現実味を帯びない。実際、参政党の神谷宗幣代表など一部野党は立憲民主党の呼びかけに難色を示しており、野党票の一本化はなお難航している。こうした中、注目されるのが日本維新の会の動向だ。維新は2024年衆院選で大躍進し、現在は衆議院で野党第一党に迫る勢力となっている。石破政権下での各種選挙敗北の陰で、維新は支持を伸ばしており、自民党にとって脅威となりつつある。維新は基本的に自主路線で、立憲民主党との共闘には否定的だ。むしろ、自民党から保守層や改革層の票を奪う存在として、次期総選挙でも鍵を握るだろう。仮に高市早苗氏が総理総裁となれば、維新は「既得権と古い体質の自民vs改革の維新」という図式を描きやすくなる。一方、小泉進次郎氏が総理になった場合、維新は対抗馬としてのインパクトが薄れる恐れがあり、戦略の練り直しを迫られるかもしれない。
また、与党内のパートナーである公明党の出方も政局に絡む重要要素だ。公明党は参院選で議席を減らし(特に東京選挙区で自民と競合し議席を失った)、自民党への不満を溜めている。石破政権下では公明党との調整が後手に回り、参院で与党が過半数割れする一因ともなった。総裁選後、公明党は新総裁に対し連立継続の条件として政策面の譲歩を求める可能性がある。例えば、公明党が悲願とする消費減税や教育無償化のさらなる拡充などについて、自民党新総裁に協議を迫るかもしれない。高市氏が総理なら公明党は安全保障政策で歯止めをかける役割を強めるだろうし、小泉氏が総理なら公明党は社会保障や弱者支援策で共鳴点を探るだろう。いずれにせよ、自公連立の行方は新政権の安定性に直結するため、新総裁は早期に公明党との信頼回復に努める必要がある。
そして忘れてはならないのが次期衆議院総選挙の見通しだ。現衆院の任期は2025年10月までであり、遅くともそれまでに総選挙が行われる。石破首相は2024年秋の衆院選で与党が過半数割れする歴史的敗北を喫し、自民・公明は現在衆院でも少数与党となっている。本来であればこの段階で政権交代が起きても不思議ではなかったが、野党が統一戦線を組めず結果として自民党が政権を維持した経緯がある。しかし、次の総選挙で再び与党が議席を減らせば、いよいよ政権維持は困難となるだろう。新総裁にとって衆院の信任を得ていない状態は非常に不安定であり、タイミングを見て衆院解散に打って出る可能性が高いとの見方がある。高市新総裁なら、就任直後に高まる支持率を追い風に2026年前半にも解散を断行し、「信を問い直す」ことで少数与党状態を脱するシナリオがある。小泉新総裁でも、フレッシュな人気を背景に早期解散で維新や立憲を牽制する戦略が考えられる。ただし、どのタイミングで解散しても、与野党勢力図が大きく塗り替わる可能性が高い。朝日新聞の専門家分析では「野党が統治能力を備えるには時間がかかるが、与党が劣化状態を続ければ政権交代の条件が整う」という指摘もある。自民党は連続短命政権で国民の不信を招いており、このままでは「与党にふさわしい資格を失いつつある」という辛辣な声も出ている。一方、野党側も即座に政権を担える状態にはなく、現実的には政界再編や多党間連立といったシナリオすら浮上し始めている。極端なケースでは、「複数野党と公明党などを糾合した救国内閣」が一時的に成立する可能性まで示唆する向きもある。それだけ現在の政局は流動化しており、総裁選の結果次第で日本政治の地殻変動が起きかねない状況だ。
以上のように、2025年自民党総裁選は石破政権の総括と今後の日本政治を占ううえで極めて重要な節目となる。党内最大派閥の思惑、改革派と保守派のせめぎ合い、そして有権者の審判…様々な要素が錯綜する中、自民党は自らの命運を賭けた選択を迫られている。他方で野党も静観しているだけではなく、水面下で勢力図の書き換えに向けて動き出している。最後に、政治に詳しい読者諸氏にとっては釈迦に説法だろうが、この総裁選を読み解くポイントを整理すると以下のようになる。
- 高市氏の組織戦と小泉氏の世論戦の勝敗
- 派閥間の合従連衡の行方
- 総裁選後の早期政局(解散総選挙含む)の可能性
- 野党再編や連立のシナリオ
この四点に尽きるだろう。それぞれが複雑に絡み合い、予断を許さない情勢だ。メディアによって論調は異なるが、本記事では事実関係と情勢分析を踏まえ、他にはない深度でこの局面を描いたつもりである。果たして自民党は再び安定政権を取り戻せるのか、それとも「劣化状態」を深めていくのか。そして日本の政治は停滞を脱し新たなステージに進めるのか。10月の総裁選は目前だ。その結果と後に続くシナリオに、国内外の耳目が集まっている。自民党総裁選の行方が、日本の未来を左右する大きな分水嶺になることは間違いないだろう。各候補者の一挙手一投足から目が離せない。